25年の歳月をかけて誕生 カシオの自動作曲アプリ「Chordana Composer」とは?

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音楽の素人には夢のようなツールですね。

  たった2小節のメロディーを鼻歌で歌うだけで、楽曲を1曲、丸ごと作成してしまうという、カシオ計算機のiPhone用アプリ「Chordana Composer」が人気だ。しかしなぜ、スマートフォンで自動作曲なのか。またどうやって、2小節のフレーズから楽曲を作り上げているのだろうか。気になる疑問を開発者に聞いてみた。

●頭の中のメロディーを自動で1つの楽曲に

 音楽の知識やセンスがあるわけではないけれど、頭の中に浮かんだフレーズをなんとなく口ずさんだことがあるという人は、意外と多いのではないだろうか。だがそのフレーズを1つの曲に仕立て上げるとなると、残りのメロディーや伴奏はどうするかなど、途端に音楽の知識とセンスが求められることになる。

 音楽を聴かないという人はおそらくかなり少数派だろう。また演奏を楽しむ人も多い。音楽に触れる機会が増えているにもかかわらず、曲を作ることのハードルは高い。それゆえ自分だけのフレーズが浮かんでも、「作曲家でもないのに、曲を作るのは……」と、諦めてしまう人がほとんどなのではないだろうか。

 作曲はできないけれど、曲を作ってみたい――。そんな矛盾した願いを実現してくれるのが、カシオ計算機が1月にリリースしたiPhone用アプリ「Chordana Composer」だ。これは、たった2小節のフレーズを入力し、曲のジャンルと曲調を選ぶだけで、フレーズをもとにメロディーや伴奏を自動的に作成し、1本の曲を作り上げてしまうというアプリ。フレーズの入力は鍵盤を用いるだけでなく、マイクから入力することも可能。つまり鼻歌を歌うだけで、曲が1曲完成してしまうのだ。

 Chordana Composerを開発したカシオ計算機のコンシューマ事業部 企画部 アプリ企画推進室の南高純一氏にこのアプリの開発理由について聞くと、やはり「誰でも頭の中に自分のメロディーがあって、世間のヒット曲よりもそちらの方がいいと思っている。それだけに、頭の中のメロディーをにしたいという潜在的な願望があるのではないかと思い、アプリとして開発した」とのこと。誰しもが密かに抱いているニーズを顕在化できたことが、アプリのヒットにつながったといえそうだ。

 実際Chordana Composerは、配信後1週間が経過した2月1週目には、App Storeの「ミュージック」カテゴリの有料アプリランキングで1位、総合、有料アプリランキングでも2位を記録するなど、配信直後から高い人気を獲得。執筆時点(4月末)でもミュージックカテゴリの有料アプリランキングで3位を記録するなど、今でも高い人気を維持している。

●2フレーズのメロディーからどうやって作曲?

 ではChordana Composerはどうやって2小節のメロディーから曲を作っているのだろうか? 「多くの独自ノウハウが詰め込まれている」と話す南高氏に、その仕組みをできるだけ簡単に教えてもらった。

 アプリを利用するには、まず最初にフレーズを入力(鼻歌の録音、またはピアノ鍵盤による演奏)し、どんな風に仕上げたいのか、曲のジャンルや曲調を設定する。アプリには、人間が自然な音階と感じる音符の接続ルールや、コード進行などのデータベースが収録されており、入力フレーズをもと曲の骨組みと言えるモチーフを生成。そこに曲調ごとのリズムとテンポ、そして伴奏や間奏を付け加えて作曲するという。

 人間が聴いて自然と感じるメロディーには音符の接続ルールがあり、それはキーとコード進行によって決まってくる。アプリは曲調ごとの「らしい」コード進行や接続ルールを元に、独自のアルゴリズムによってモチーフからイントロ、Aメロ、Bメロ、サビといったメロディーを構成し、伴奏を作り上げていくのだそうだ。そこには、ユーザーが入力するフレーズはもちろん、楽曲のジャンルと曲調、そしてメロディーの動きの大きさやテンションなど、いくつかのパラメーターが大きく影響してくる。

 完成した曲はアプリ上の五線譜にも表示され、音符を直接タップして編集することもできる。その際に譜面を見ると、赤や青で表示された音符が出てくる。これはメロディー内の音がコードに合っているのか、テンション(和音を構成する音以外で緊張感を与える特徴的な音)なのか、あるいはコードから外れるため利用に注意すべき音(アボイドノート)なのかを判別して表示されるもの。この仕組みがあることによって、音符が苦手な人でも、簡単にかつ音を外すことなく編曲ができるという。

 ちなみにChordana Composerが“2小節で作曲できる”とうたっているのは、最初のバージョンではマイクによる入力が2小節までしか対応していなかったことが大きいという。だが現在ではマイク機能が改善されたことで、設定を変更して入力できるフレーズが1~8小節まで変更できるようになった。ということで、実は1小節のフレーズだけでも作曲が可能なのだ。

 自然な形で自動作曲を実現したのに加え、一見すると複雑に見えるという複雑な仕組みを、手軽に利用できるよう設計しているのも、Chordana Composerの大きなポイントといえるだろう。実際、鍵盤だけでなくマイクから音声を入力できるだけでなく、作曲を開始してから、曲が完成するまで待たされることなく、瞬時に曲を楽しめるようになっている。

 南高氏も「時間をかければより多くの取り組みができるが、誰でも楽しめるよう、できるだけ短時間で作曲できるようにした」と話しており、譜面が読めなくても作曲を楽しめることを強く意識していることが分かる。もちろん、作曲の知識や経験のあるユーザーが使えば、より楽しめるのは間違いない。

●自動作曲は25年以上の歳月をかけて実現

 カシオ計算機はデジタルピアノや電子キーボードなどの電子楽器事業を手掛けている。それだけに、カシオが自動作曲ツールを開発すること自体は自然な流れともいえるが、なぜそれを電子楽器ではなく、スマートフォンで実現することになったのだろうか。南高氏によると、それには25年以上の積み重ねがあるのだそうだ。

 南高氏がカシオに入社した1982年当時は、ちょうど“人工知能”のブームが起きていた頃でもあった。カシオとしても人工知能を応用した取り組みをするべく、自動作曲がテーマに選ばれた。南高氏は1986年に研究開発部門へ移り、自動作曲を本格的に研究。1988年には現在のChordana Composerのベースとなる、自動作曲に関する論文も発表している。

 だが論文を発表した当時は、「ハードの性能やコストなどの面で、自動作曲には限界があった」(南高氏)という。当時試作した自動作曲システムはメディアに取り上げられ話題になったものの、機械的な繰り返しが多いなど音楽的に不自然な部分が多く、イントロやサビを付けたりすることもできなかった。社内で「音楽的にいまいちでは」という評価を多く受けたこともあり、実際の商品に「自動作曲を導入する自信がなかった」と南高氏は振り返る。

 南高氏は後に電子楽器の開発部門へ戻り、自動でコードを付けてくれる電子キーボードの“カシオトーン”「VA-10」、テレビと接続して大画面で作曲や素材を組み合わせた曲の制作ができる「GK-700」といった製品の開発に携わることになる。この2つには過去の研究を元にしたアレンジ機能など、現在の自動作曲に連なる要素を組み込まれているのだが、当時も本格的な自動作曲機能の導入にはやはり至らなかったそうだ。

 その後しばらく、南高氏は自動作曲を“封印”し、社内で電子楽器の研究や開発を続けていたのだが、転機は2012年に訪れた。カシオ社内で新しいビジネスを立ち上げることとなり、南高氏もこのプロジェクトに参加。そこで開発されたのが、曲中のオーディオファイルからコードを解析する“自動耳コピ”というべき技術を用いた2つのiOS用アプリだった。それが、曲に合わせて楽器やパッドをタップし和音が奏でられる「Chordana Tap」と、曲中のコード譜を画面に表示して確認できる「Chordana Viewer」だ。

 2013年に配信したこれらのアプリが一定の成果を収めたことから、南高氏は専任でスマートフォンアプリの開発に取り組むこととなった。そこで新たに取り組んだのが、南高氏が「どうしたらいいか、常に考えていた気がする」と話す自動作曲機能だった。

 開発を志してから25年以上。その間、自動作曲のノウハウは蓄積され、ハードの性能も劇的に進化した。スマートフォンには電子楽器より高性能なプロセッサーが搭載され、タッチパネルという汎用的なユーザーインタフェースも備えている。積み重ねられた資産と、環境の変化を活用することで、懸案だった自動作曲の不自然さを取り払い、このChordana Composerを完成させたのだそうだ。

 自動作曲に生かされているのは技術の進化だけではない。「カラオケやDTM、アニソンなどで音楽は大きく変わってきた。音楽との接し方自体も変わってきている」と南高氏が話しているように、時代に応じて音楽自体も進化を遂げている。

 音楽にはコード進行など伝統に基づく普遍的な面も数多く残る一方、曲のはやり廃りはもちろん、レコードがCDになり、そしてダウンロード配信が当たり前になるなど、消費の仕方も激変している。それに合わせて制作過程も移り変わってきた面があるという。こうした変化を柔軟に取り入れながら仕組み作りに生かしたことも、アプリがヒットした要因として大きいだろう。

●ダウンロード課金でビジネスは成立するのか?

 “自動作曲”という多くの人が興味を持つテーマをアプリにしたこと、そして南高氏の長年の研究実績に裏打ちされた、精度の高い作曲システムが評価され、Chordana Composerは人気を獲得したといえる。だが1つ疑問なのは、1本600円というダウンロード課金スタイルで採算が取れているのか? ということだ。スマートフォンのアプリマーケット上では無料アプリに対する支持が強く、アプリのダウンロード課金によるビジネスが成立しづらくなっているからだ。

 この点に関して南高氏は、「カシオがアプリ市場に参入する際、すでにアプリマーケットが無料化の波に押され、ビジネスが厳しい状況にあった。そのため、無料化の影響が比較的小さい分野に絞ってアプリを提供することを目指した」と説明する。具体的には音楽のほか、教育、ビジネス、仕事効率化の4分野になるという。いずれもカシオが既存製品で進出している分野であり、社内の要素技術や市場での経験など、競争力を発揮できる分野だ。

 この4分野で質の高いアプリを提供すれば、有料でも受け入れられる可能性が高い。だが課金方法に関しては“適材適所”とのことで、同社のアプリの中でも「撮ってキャラスタジオ」のように、ダウンロードは無料でアプリ内課金を採用しているものもある。

 では今後、南高氏はChordana Composerをどのように進化させていこうとしているのだろうか。「これまでは使い勝手の改善に力を入れてきたが、当面はユーザーの要望が色々出てきているので、それに応えていきたい」と南高氏は話す。具体的には、楽曲のジャンルを増やしたり、AAC形式の音声ファイルでしか出力できない楽曲を、電子楽器でも扱えるMIDI形式でも出力できるようにする、といった取り組みになるようだ。

 さらにその先には、楽曲を作成してメールで送るだけでなく、作った音楽で人と人とをつないでいくことを考えていきたいと、南高氏は話す。自動作曲という多くの人の“夢”を実現した南高氏が次にどのようなタクトを振るのか、期待が持たれるところだ。
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